※本座談会は2024年6月18日に開催されました。
社外取締役座談会
中長期的な企業成長に向け、
当社の強みを活かす事業戦略と人材育成が重要課題。
長期的な成長に向け、より深い議論が必要
2023年度の取締役会実効性評価では「重要な経営課題に関する議論の深化」を今後の課題に挙げられましたが、この先目指すべきガバナンス体制のあり方についてお聞かせください。
谷取締役会の実効性については、改善に向けた真摯な対応がなされており、ガバナンス体制は着実に向上していると思います。今後の課題としては、もう少し長期的な成長戦略にフォーカスして、当社の強みに基づく事業ポートフォリオや収益力の強化に向けた議論が必要だと思います。イノベーションへの取り組みや資本効率に対する意識改革も重要です。その点、社外取締役は事業の詳細について知識、情報が十分でない部分もあるので、取締役会とは別にフリーにディスカッションする場を設けて取締役会の議論を補完するといった工夫をしていただくと有難いですね。
菅同感です。腰を据えて忌憚のない意見を交わすことが大事ですから、インフォーマルだけれども具体的に議論しやすい会議の場をさらに設けるべきではないでしょうか。
道林中長期的な企業規模の拡大を考えた場合、川崎製造所のキャパシティについてはもはや増やす余地がないので、必然的に他社とのアライアンスも選択肢に上がってきます。その際、本当に同じ目線で経営ができる、パートナーとなりうる会社をどのように探すのかは大きな課題です。素材産業という観点では、単純に新しい事業を構築するのは難しい面があります。成長戦略のために我々には現実的にどのような選択肢があるか。そういう議論を突き詰めることが重要です。
江藤私は昨年の統合報告書で、製造拠点が一か所しかないことがネックなので、そこをどう解決するかということを申し上げました。10年20年、100年先のために、この数年間で取り組むべきことは何か、取締役会できちんと見極めていくことが大切です。例えば、事業軸はステンレスだけでいいのか、もっと幅を広げてポートフォリオを変えていくのかなど、すでに検討が始まっています。将来に向けた成長戦略は、まさしく取締役会で議論すべきことです。
昨年スタートした中期経営計画の達成に向けての課題をお聞かせください。
谷一昨年に稼働した新電気炉に続いて冷間圧延機等の大型設備の稼働が控えています。
これらの設備投資について、当初想定した投資効果を確実に実現できるようにまずは安定的な操業体制を構築することが喫緊の課題だと思います。
それから、「人の問題」です。労働力不足が顕著になっている環境下で、どういう人材をどのように確保していくのかという人事戦略の強化が極めて重要になってくると思います。
江藤私も、人材の採用・育成は大きな課題の一つと考えています。海外事業を伸ばすための即戦力や製造拠点の人材確保も難問です。DX戦略は人手を補完するために重要なツールとして取り組みを開始していますが、人が見るべき所は必ず残りますから、その人材をどう確保するのか、多様な人材が活躍していける会社にしていくべきです。
菅人材の採用・育成の重要性はもちろんですが、離職率や定着率を認識することも大事です。これからは人材確保と同時に一人当たりの生産性をしっかり把握し、どう向上させていくか、考えていくべきです。
道林グループ全体で良い人材を集めて、グループ全体の力を高めていくことが大きな課題です。中期経営計画の重要な施策である製品の高機能化を進めていくうえで、下工程を担うグループ会社の活用も含めて事業戦略を遂行していくべきです。
買収防衛策を継続する意義とは
買収防衛策を取り下げる会社もあるなか、貴社は昨年の株主総会において3年間の継続が承認されています。これを踏まえて、社外取締役としてご意見をお聞かせください。
谷私は、当社の買収防衛策には一定の合理性があると思っています。他方で、最近の買収に関わる環境変化や経産省から買収に関する行動指針が出たこともあり、以前に比べ防衛策の必要性が低下しているのも事実です。従って、有事の防衛策も含め会社としての取るべき選択肢を改めて議論することが重要だと思います。ただ言うまでもなく、本来は会社として将来のビジョンや戦略をきちんと株主に示して持続的な成長を実現して株価を上げ、企業価値の向上を図ることが先決で、それが一番の対抗策だと思います。
菅私は、今の中長期計画や事業運営が、第三者から見て適切か、もっと良いやり方はないかという見方を常々しておく必要があるということだと理解しています。買収そのものを悪と捉えるのではなく、客観的な視点を持つことが大事なのではないでしょうか。
江藤買収防衛策を掲げている意義は、株主の皆さんが合理的にきちんと判断できるような情報と時間を準備するためだと考えています。決して今の経営陣がずっと経営陣として居座りたいからではない。当社以上に事業を成長させる可能性のある会社が現れた場合には、提案について前向きに検討すべきだと思っています。
道林今までのように防衛策が先にあれば安心という時代ではありません。防衛策を維持する意味がどこまであるのか、さらに突っ込んだ議論が必要と思います。その意味で、取締役会で毎年議論の上、継続を決定する当社の仕組みは意義があります。
(注)2024年6月の取締役会を以て、本年も買収防衛継続について決定しています。
(2024年6月26日退任)
日本冶金工業の未来に向けて
今後の日本冶金工業に期待することをお聞かせください。
道林私が社外取締役に就任してからの8年間はいろいろなことがありました。厳しい時代から立ち直り、「PBR1倍を目指そう!」という所までよく来たと感じます。皆さんが120%で駆け抜けてきた結果だと思いますが、ここまで収益が上がって賃上げもでき、やっと先を見通した会社経営ができるステージにまで上がってきたと思います。
菅当社の従業員は、一人で何役もこなす多能工が多いと思います。一方で、もっと大きな目で見るとモノカルチャーです。基本的にはステンレスの製造・販売に特化しています。今後はもっと違う考え方、価値観の人を採用すべきです。「こんな考え方もあるのか」といった刺激の多い組織は強さにつながると思います。
江藤当社は苦労の時期を経て今、前向きな気持ちを感じます。ただ、現状に満足してしまったら、そこから企業は衰退しますから、今までとは違う発想で新たな成長に向けて取り組んでほしいと思います。
谷私は、次代を担う若い世代の皆さんに期待しています。是非次の100年に向けて、どういう会社にしたいのか、どう社会に貢献すべきか等々よく考えてもらいたいですね。仕事をこなすのではなく、新しいことを創造することに頭を使っていただきたい。是非失敗を恐れず、新しいことにどんどんチャレンジする企業風土を醸成していってほしいと思います。
(2024年6月26日退任)