社外取締役座談会
社外取締役座談会

社外取締役座談会

“レジリエント”な企業を目指して
次なるステージを見据えた社外取締役からの提言

取締役会のあり方や次期中計に向けた期待など、中長期的な企業価値向上に向けての課題をテーマに、
当社専務執行役員である豊田の司会のもと、社外取締役4名による座談会を実施しました。

収益目標達成の一方、成長面で課題が顕在化した一年

豊田2024年度における経営全体の振り返りについて、皆さまの観点からお話をいただきたいと思います。

独立社外取締役 谷 謙二 独立社外取締役 谷 謙二

現中期経営計画の2年目として目標を上回る利益を達成し、株主配当も含めて目標通りに実行された点は評価しますが、前中期経営計画の最終年度をピークに業績が低下している事態には懸念を抱いています。コスト構造や販売ポートフォリオについて、もう一度精査する必要があるのではないでしょうか。また、電気炉に引き続いて総投資額110億円に及ぶ新冷間圧延機など大規模な投資を行いましたが、これらの設備が着実にその成果を発揮しコスト競争力の確保につながるよう、まずは新設備に対応した操業の安定化を図ることが重要です。その観点からも、その進展状況と成果をしっかり見極めていきたいと思います。

より収益性の高い販売ポートフォリオへの転換については検討されていると思いますが、まだ成果に結びついていないと感じます。事業規模・製品バリエーションを拡大するために、他企業との提携も視野に入れてはいかがでしょうか。いずれにしても、業界のなかでの当社のポジションを見極めながら、この分野では負けないという強みを見つける必要があります。

江藤2024年度は厳しい環境に直面したことで、短期的な対応に集中した印象があります。2025年度も引き続き不透明な事業環境になると予想されますが、目先の利益確保ばかりではなく、中期経営計画で定めた中長期的な事業成長のための施策にはしっかりと取り組んでいただきたいと思います。

小川当社は国内の限られたステンレスメーカーとして製品供給の使命を負っており、持続的な事業運営が期待されるところですが、取り巻く環境は変化が大きく、不確実な状況にあります。現状の業務を積み上げるのでなく、今後何を重視し、何を強みとしていくかを多角的に議論すべき時と考えます。そのためには、当社と異なる機能を持つ企業や公共セクターともグローバルレベルでの信頼関係を深めながら新たな成長への協働体制を視野に入れていくことも肝心だと思います。

豊田現中期経営計画では、収益的には目標水準にあるものの、コスト構造や事業ポートフォリオで課題が残るという点はその通りです。一方、財務基盤については着実に改善されています。次期中期経営計画の策定に向けて、現中期経営計画の最終年度を発射台としてどのようにつなげていくか。経営企画部を含む執行側にとって大きな課題と認識しています。

ステンレス業界では、特に生産面での再編が進み、環境は大きく変化しています。この変化のなかで、生産能力など私たち自身の実力が実際にどの程度あるのか、現状の立ち位置を改めて正確に認識する必要があるのではないでしょうか。

豊田重要な視点ですね。当社では、これまで熱間圧延機やアルゴン酸素精錬炉、新電気炉といった会社の存続にも関わる大きな設備投資を行い、生産設備や製造技術に関しては非常に優れたものを有していると自負しています。ただ、そうした投資効果を実感できるまでには時間がかかります。だからこそ、長期的な視点での評価と継続的な取り組みが求められるということだと思います。

独立社外取締役 江藤 尚美 独立社外取締役 江藤 尚美

中長期視点で、より深く、実効性を高める議論を

豊田今後の取締役会はどうあるべきか。先程の課題認識も踏まえ、ご意見をお願いします。

当社は、監査等委員会設置会社へ移行したことで、執行面でも特定の取締役に対して権限を大きく委譲する体制に変わります。こうしたガバナンス体制の変更を踏まえ、中長期的な企業価値の向上に向けた戦略・施策や、後継者育成計画も含めた人的資本の取り組みについて、密度の濃い議論ができる取締役会を構築していければと思っています。

当社が企業戦略をうまく進めていくためには、焦点を明確に絞ること、そして取締役会以外の場でもしっかりと議論を行うことが不可欠だと思います。取締役会の運営については、メンバーがそれぞれの考えを持ち寄り、将来につながる項目について実効性のある討論ができることが望ましいですね。

江藤当社は投資家の方々に「この会社は成長していく」という期待や関心を持っていただけるような成長の道筋を示さなければなりません。最近、IR・広報活動が充実し、投資家の方々の期待がより明確に分かるようになりました。頂いた意見も踏まえ、会社の中長期的な成長戦略について取締役会で議論を重ね、執行メンバーが具体的な計画を策定し、投資家に明確に伝えることができれば、株価の改善にもつながるものと期待しています。

そうした議論ができるように機関設計を変えた意義を追求していく必要もありますね。取締役会をより良いものにするために、単なる制度変更や取締役の人数変更では意味がありません。何のために変えるのか。その目的設定をはっきりさせることが重要だと思います。

小川取締役会は、発言しやすいオープンな雰囲気があると感じます。議論の中身については、もっと活発にできる余地があると感じますが、皆さんが非常に誠実に対応されており、その点は心強く思います。今後より議論を深めていくためには、焦点を絞ることに加え、日頃から課題意識を共有しておく必要もあると感じます。

江藤当社では社外役員へのトレーニングとして、工場見学や取締役会の事前説明、フリーディスカッションの場が設けられており、その点は非常にオープンだと思います。

独立社外取締役 菅 泰三 独立社外取締役 菅 泰三

買収への対応方針には、戦略的な視点で取り組む

豊田今ある対応方針の議論と併せて、本質的にはどのように企業価値を向上させるかという議論が不可欠です。そのために、取締役会において実効性のある議論を引き続き重ねていきたいと考えています。

江藤昨年も申し上げた通り、当社が買収への対応方針を掲げている意義は、株主の皆さんが合理的に判断できるような情報と時間を準備するためのものだと考えています。そのため、現在の対応は一定の合理性があると考えますが、平時型の期限を迎える2026年6月までの間に、社会の動きなども踏まえどのような対応が望ましいか議論を重ねていく必要があると思います。そもそも、会社は買収提案があった場合には提案内容を冷静に見極めたうえで、前向きに検討すべきだと思いますし、買収されたくないと強く思うのであれば、自力で成長ストーリーを打ち出して株主の皆さまに納得していただかなければなりません。

現在の買収への対応方針に一定の合理性があるという点に異論はありません。ただ、現在のマーケット環境では、平時に防衛策を持っていること自体、受け入れられにくくなっているという現実は重く受け止める必要があります。こうした現実に本当に対抗する根拠があるのか、という問いに納得感を持って示せるのは、有事型に絞った方針ではないでしょうか。今後はその方向に向けて体制を整えていく覚悟が求められます。

私も、平時型の買収への対応方針は、現状にそぐわなくなってきていると感じます。大事なのは、時間をかけて丁寧に説明し、最終的な判断は株主総会で行うという姿勢です。一方で、相手が会社の成長も考えて買収を提案しているのか見極めなければならない場面も出てくると思います。そうしたなかで、株主が状況を把握したうえで「会社側の提案が妥当」と判断でき、有事には会社側に賛同していただけるような態勢を整えることが重要です。

小川買収という事態が現実に起こり得ることとして、真剣に考え続ける必要がありますね。受け身でいる必要はなく、対応策だけにとらわれるべきではありません。むしろ新中期経営計画の議論のなかで、買収リスクも含めた戦略的な視点から、主体的にどうあるべきかを考えていくべきではないでしょうか。

買収によって会社がどう変わるのか、また誰にとっての幸せなのかという視点も重要です。誤解を恐れずに言えば、企業価値向上のための明確なビジョンを示して、その実行についても信頼できる相手であれば、場合によってはすべてのステークホルダーにとって買収が望ましいという判断もあり得ると考えています。

豊田当社には業界再編の荒波を生き残ってきたという歴史があり、また昨今のアクティビストの動向も踏まえ、買収に対して良くない印象があるのも事実です。当社の来歴を理解し、外部の意見も冷静に受け止めたうえで、今後の対応を議論することによって建設的な方向に向かうのではないでしょうか。当社の企業価値向上のためのエクイティ・ストーリーを描き出すためにも、新中期経営計画の議論においては、買収への対応方針のあり方を戦略的に位置づけて取り組んでいきたいと考えます。

独立社外取締役 小川 麻理子 独立社外取締役 小川 麻理子

“守り”から“攻め”へ──企業体質強化から次のステージへ

豊田最後に、これから議論が始まる次期中期経営計画についてのご意見をお聞かせください。

繰り返しになりますがここ数年で実行した戦略投資の成果を発揮するよう、まずは効率的かつコスト競争力のある生産体制を構築、維持していく事が何よりも重要です。それをベースに、次期中期経営計画では、より積極的な成長を目指すために攻めの経営に転換していくべきだと考えています。

私は、自らの生産性の向上と競争力の強化を基本に、国内外の競合他社の動きも意識しながら量的な成長も目指すことが重要と考えています。そのために必要なのは、人材力です。柔軟な発想と実行力を持つ人材の獲得に加え、プロジェクトリーダーになれる部長クラスの人材を迎え入れることも重要です。次の展開に向けて、より機動的な体制づくりが求められます。

江藤人材は、採用してすぐに成果が出るものではありませんが、製造拠点を含めた人材確保・育成は、将来の成長に向けた重要な土台になります。そうした点も踏まえ、もう一段のスピード感を持って人材戦略に取り組んでいただければと思います。

豊田現場を含めて、多様な人材が活躍できる環境づくりは重要なテーマですね。残業規制などで労働時間が制約されるなかで、労働生産性をいかに高く維持できるか。また、海外展開を進めるなかで、海外人材の採用・育成をどうするか。そうした課題は、次期中期経営計画にしっかり組み込む必要があると思います。

小川例えば、インド市場での成長を考える場合、既存の仲間だけでなく、現地の新たなパートナーとの協働も重要になるでしょう。その際に必要なコミュニケーションの活性化施策等についても、この先の議論が深まることを期待しています。

若い世代にとっては、将来の成長が期待できて新しいことに挑戦できるワクワク感のある会社であることは大事です。そうした企業文化は、一人ひとりが「そういう会社をつくるんだ」という思いを持って行動しなければ実現しません。加えてトップからのメッセージが重要です。新中期経営計画の発表は、社長が新たな方向性を打ち出す絶好のタイミングといえます。

江藤浦田社長は海外営業の専門家であり、ガバナンスや人材育成などについても強い課題意識をお持ちです。社長として初めての中期経営計画策定になりますので、ご自身の視点を活かし、前面に立ってリーダーシップを発揮していただきたいと思います。

豊田次期中期経営計画の策定に向けて、現在、経営企画部が各部門へのヒアリングを進めており、8月初旬には一巡する見込みです。次期中計には社長の思いを最大限に反映させ、皆さんのご指摘の通り、後ろ向きの安定ではなく、新たな未来を拓き、企業価値を高めていくプランを目指しています。その意味でも“レジリエント(しなやかで強い)”という言葉を第一に掲げており、外部環境の動きのみに縛られず、柔軟かつ力強い成長戦略を描いていきたいと考えています。本日はありがとうございました。

取締役専務執行役員 司会進行 豊田 浩 取締役専務執行役員
司会進行 豊田 浩
独立社外取締役 谷 謙二 独立社外取締役 谷 謙二
独立社外取締役 江藤 尚美 独立社外取締役 江藤 尚美
独立社外取締役 菅 泰三 独立社外取締役 菅 泰三
独立社外取締役 小川 麻理子 独立社外取締役 小川 麻理子
取締役専務執行役員 司会進行 豊田 浩 取締役専務執行役員
司会進行 豊田 浩