

社外取締役座談会
「ありたい姿」の実現に向けて
『SHINKA』を支えるガバナンス─社外取締役が果たす役割
当社では、多様な知見と経験を持つ社外取締役を迎え、ガバナンスの強化に取り組んでいます。
今回は、前中期経営計画の振り返りや新中期経営計画への期待、持続的な成長に向けた課題と
社外取締役の役割について語っていただきました。
「守り」の成果を土台に、次は「成長」の実現へ──
投資の刈り取りとボリュームの拡大が継続課題
豊田それでは前中期経営計画の振り返りについて、皆さまの観点からお話しいただきたいと思います。
独立社外取締役 谷 謙二
谷前中期経営計画で、定量面ではEBITDAが3年平均で目標の200億円を上回りました。また、株主還元についても目標通りの数字を実行しており、一定の評価ができると思います。ただし3年連続で減収減益となっており、今後これにどう対処していくかが重要な課題として残りました。
また過去数年で実行した戦略投資の具体的成果が思ったように出ていません。従って、操業面についても引き続き課題が残っていると感じています。
菅何よりもボリュームが不足していました。一般材、高機能材ともに販売数量が伸び悩みましたが、特に高機能材が期待通りの結果を残せませんでした。期待していた太陽光関連案件が想定を下回ったことも一因です。一方で、国内市場では採算を重視し、一定の利益を確保する姿勢を貫きました。今後は、販売数量の確保と利益水準の維持をいかに両立させるかが課題になると考えています。
江藤前中期経営計画は、「守り」はできていたと思います。一般材についてもスプレッドを確保し、利益を維持するとともに、財務体質も改善しました。一方で、「成長」については十分な成果を上げることができませんでした。市場環境は厳しかったものの、それを理由にすることはできません。新中期経営計画は「成長」を意識した内容となっており、その実現に期待しています。
小川私は、前中期経営計画ではインド現地法人の開設、戦略的設備投資の実施、財務基盤の強化など、着実にステップを進められたことを高く評価しています。他方、受注環境の悪化が大きな要因となり、業績は低迷が続きました。変化を予見するのは難しいですが、不確実性が高まる中、いかにスピード感と柔軟性を持って急速な環境変化に対応できる体制としていくか──これまで長年蓄積してきた対応力はありますが、捕捉する市場の拡大や社内連携・体質の強化などを含め、さらなる改善の余地はあるはずです。レジリエンスの強化が求められているということかと思います。
豊田やるべきことを着実に積み重ねてきた結果、黒字が定着し、純資産1,000億円を達成できたことは、前中期経営計画の大きな成果だと考えています。今後はこの財務基盤を活かし、次なる成長投資へとつなげてPER、さらにはPBRの向上に取り組み、時価総額1,000億円以上を目指します。一方で、皆さまからご指摘いただいた課題については、執行側も十分に認識しており、新中期経営計画の策定にあたっては、社外取締役の皆さまからいただいたご意見を適宜反映いたしました。監査等委員会設置会社へ移行するなど、企業価値の向上に向けたガバナンス改革にも取り組んできました。新中期経営計画では、積み残した課題を解決するだけではなく、成長を明確に打ち出していくことが特に重要であると考えています。さらに、今後の受注回復局面に迅速に対応できるよう、生産体制の整備も着実に進めています。
独立社外取締役 江藤 尚美
「報告の場」から「議論の場」へ──実効性あるガバナンスを目指して
豊田次にガバナンス体制について伺います。当社は監査等委員会設置会社へ移行しましたが、取締役会の運営についてご意見をお願いします。
谷監査等委員会設置会社への移行に関しては、率直に申し上げて、移行して間もないため、真価が問われるのはこれからだと感じています。ガバナンスへの取り組み自体は非常に真面目ですが、取締役会が形式的になってしまっている部分が否めません。本音で語り合える場にどう変えていくか、工夫が必要です。
江藤私も同感です。どんな組織機構であっても、それをどう運営するかという「ソフト」の部分が重要です。移行によるメリットを刈り取るには、まだ時間がかかるでしょう。ただ、取締役会でも中長期的な展望を話し合おうという問題意識は確実に共有され始めています。また事務局でもいろいろ工夫していただいているようなので、今年は大きな進展を期待しています。
菅本質は機構の形式ではなく、深い議論ができるかどうかだと思います。当社は以前から、トップが取締役会メンバー等に対し積極的に意見を求める姿勢を持っていましたが、最近は特に「君はどう思う?」と執行サイドに対しても問いかける場面が増え、より自由闊達なコミュニケーションが生まれていると感じます。また、監査等委員は議決権を持つことで、監査という立場に加え、経営に参画しているという意識がより一層高まっているのではないでしょうか。
小川私も移行は一つの前進だと捉えています。今後は、さらに取締役会の時間を効果的に使えるよう、議題の整理が必要です。本当に議論したいテーマについて、事前の深掘りや共通認識の醸成を行うなど、さらなる一工夫が求められていると感じます。例えば重要なトピックについては、取締役会の外で議論する場を設けてもよいと思います。
豊田執行サイドとしては、これまでどうしても社外取締役からの質問に対して受け身になりがちでした。取締役会を「報告の場」から「議論の場」に変えていくためには、今後は議案を精査し、どれを執行側に委ねるか、何を取締役会で議論すべきかの切り分けを行って、より重要な意思決定にフォーカスできるような体制を整えたいと思います。
独立社外取締役 菅 泰三
鉄鋼の枠を超え、新たな成長へ──
3年間で設備投資・研究開発に451億円を投入
豊田このたび策定した「中期経営計画2026-2028」についてご意見をお聞かせください。
谷当社では、中期経営計画の策定プロセスが、フィードバックを含めて非常に丁寧に行われています。新中期経営計画には、前中期経営計画から持ち越した課題もありますが、今後の成長戦略等取締役会で申し上げてきた内容がしっかりと反映されており、その点は高く評価しています。
菅スラブ型再溶解設備(ESR)など新しい技術への挑戦や、それに伴う航空宇宙分野など新しい市場の開拓に期待しています。当社の歴史を振り返ると、2000年頃には厳しい経営状況の真っ只中にありましたが、思い切って戦略を汎用ステンレスから高機能材へとシフトすることで大きな変革を遂げています。当時と異なり現在は財務基盤も安定しています。今こそ次の成長に向けた新たな転換期を迎えているのではないでしょうか。
江藤私は、新中期経営計画では「成長」を意識すると同時に、「種まき」にもしっかり取り組んでほしいと申し上げました。中期経営計画は3年間ですが、その期間だけでは成果を刈り取りきれない中長期的な施策もあります。だからこそ、将来を見据えた投資や取り組みを着実に進めてほしいと考えています。一方で、成長が期待できる領域や、それぞれの市場規模を具体的に示すことができれば、なお良かったのではないかと思います。
小川新たな領域への布石が盛り込まれており、発展性を期待できる計画だと感じています。当社は、世界初・国内初といった挑戦を数多く重ね、常に新しいことにチャレンジしてきた会社です。その歴史を踏まえると、中長期的な視点で新たな種まきと成果の刈り取りを両立していくことが重要であり、今回の計画はその方向性を明確に示していると思います。
豊田ご意見にもありましたように、新中期経営計画では将来の成長に向けた投資を計画しています。キャッシュ・アロケーションで開示している通り、今後は成長投資を積極的に推進し、3年間累計で設備投資(キャッシュフロー)は397億円(前中期経営計画対比30%増)、研究開発費(新領域開発枠15億円含む)は54億円(同80%増)を見込んでいます。
菅この投資には期待しています。一方で、EBITDA、ROEなどの数値目標については、当社の成長に向けての意欲や想いを伝えるべく、もっとチャレンジングな数値を出してもよかったと思います。
谷基本的に保守的な企業文化ですからね。そこが当社の良いところでもありますが。とはいえ海外の高機能材市場に参入を果たした時は挑戦者として「攻める」側でしたが、今は「攻められる」立場です。そういう環境下で今後成長していくためには、まず外(競合先/市場)を知ること、常に外の状況を注視/分析し、外に対して適切な手を打っていくことが欠かせません。
菅中国、ヨーロッパ、アメリカの競合の動きを常時ウォッチしつつ、追いつかれないよう対策しながらも逆に彼らの弱みを攻めていく──競合を知るということですね。
豊田ご指摘の通り高機能材をグローバルに展開していくうえで、市場調査は重要です。そのため、2026年4月に「ソリューション・マーケティング部」を設置しました。これまでは顧客との対話を中心に活動してきましたが、今後は市場動向や競合の状況を的確に把握するとともに、お客さまが求める製品やニーズを先取りし、製品開発や提案活動につなげていきたいと考えています。
谷新中期経営計画で掲げた「ありたい姿」を実現するには、これまでの延長線上にあるリニアな成長だけで本当に到達できるのか、という視点が重要だと思います。社会や市場環境がドラスティックに変化する今は、アライアンスやM&A、さらには新たな事業領域への挑戦など、非連続な成長も視野に入れる必要があります。実行は容易ではありませんが、日頃からリニアな成長と非連続な成長の両面で成長戦略を考え続けることが、中長期的な企業価値向上につながる重要なポイントだと考えています。
豊田前中期経営計画から持ち越した課題への対応に加え、新中期経営計画で掲げた開発投資を着実に進め、2030年、さらにはその先を見据えて、まずはPBR1倍以上を達成したいと考えています。そのためには、従来の鉄鋼セクターという枠組みを超えていくくらいの発想や挑戦が必要だと思います。国内ではステンレス専業メーカーとしての強みをしっかりと基盤にしながら、海外では高機能材分野で、トップサプライヤーを目指していきたいと考えています。
江藤確かに、PBR1倍は鉄鋼業界としては遠いですからね。だからこそ、先ほどのお話にもあったように、鉄鋼業界という枠組みを超えていく発想は非常に重要なアプローチだと感じています。一定の利益を確保できればよいという考え方では、もはや投資家の期待には応えられません。当社には、もう一歩踏み込んだ挑戦をぜひ進めてほしいと思っています。
豊田当社は過去に財務体質が厳しい時代を経験していることもあり、大きなリスクを伴う挑戦には慎重になりがちな側面があります。だからこそ、そうした場面では社外取締役の皆さんに背中を押していただきたいと思っています。
谷私も、社外取締役にはそのような挑戦を後押しすることが重要な役割の一つだと考えています。市場規模や投資効果などを十分に見極めながら、必要なリスクは取るべきだという視点で議論を深め、執行側を後押ししていきたいと思います。
独立社外取締役 小川 麻理子
持続的な成長を支える経営課題──
人的資本・DX・AI・カーボンニュートラルを注視
豊田中期経営計画2026-2028の推進にあたり、今後重視すべきモニタリングポイントについてお聞かせください。
谷今後より重視していくべきという観点からは、人的資本の強化、DX・AIの活用、カーボンニュートラルの3点が挙げられます。人的資本については、取締役会の中で議論がまだ少ないと感じています。人材は持続的な成長を支える重要な経営資本であり、より積極的に議論・検討を進めていきたいと考えています。またDX・AIについては、その活用によって工場の操業のあり方が変わると言われていますが、当社はやや対応が遅れている印象があります。鉄鋼業だけでなく他業種も含めてモニタリングし、対応を急ぐべきだと考えています。またカーボンニュートラルは、鉄鋼業にとって重要な経営課題であり、今後も継続的にモニタリングしていきたいと考えています。
菅先程「競合を見る」という話をしましたが、特にDX・AIの活用については最新の技術や世界の動向を常にウォッチしておくことが必要だと思います。例えば、欧州の自動車メーカーでは人型ロボットが導入されたりしています。この結果一年で生産性がガラリと変わります。私が考える最大のリスクは、DX・AIの進展がもたらすゲームチェンジです。スマートファクトリーやフィジカルAIへの対応で遅れをとると、もう取り返しがつかない──そんな危機感があります。今後は、DX・AIをどのように活用して生産性を向上させるかについて、海外を含めた情報収集を強化し、一歩先を見据えた取り組みを進めていく必要があります。
小川新中期経営計画の主要施策の推進には、生産・営業をはじめ各部門が連携して取り組む必要があるため、取締役会としても、それらを適切にフォローしていくことが重要です。また、これから海外展開を強化していく中で、グローバルガバナンスの強化・整備が必要で、この点についても注視していきたいと考えています。
素材で未来をこえていく──技術・人材・挑戦を力に、未来を切り拓く
江藤当社については、技術力はもちろん一貫生産体制、多品種少量生産など独自の強みがあり、専業ならではの機動力を発揮できるにもかかわらず、最近は減収減益が続いています。何とかこの流れを変えたいと考えており、今年はまさに正念場です。そのためには、市場や顧客の変化に対する感度を高め、それに機動的に対応していくことが不可欠です。高機能材の拡大や納期短縮を実現するためには、工場と営業が知恵を結集し、一体となって取り組むことが重要です。そうした力をさらに磨いていかなければトップランナーにはなれませんが、当社にはまだ大きな伸びしろがあると思っています。私は、規模は決して大きくありませんが、小粒でもきらりと光る会社であってほしいと期待しています。
小川江藤さんと同じく、当社のポテンシャルは高い技術力に加え、多様な高機能材を取り揃えていることにあると考えています。また、今はトーンダウンしているものの、環境エネルギー関連は高機能材の貢献が期待できる分野であり、そこを軸として持ち続けていくことが、中長期的な成果につながるものと考えています。
それともう一つ、現場の若手の皆さんと意見交換をする機会があり、その時に、各分野に真剣に向き合って新しい挑戦をされている社員の方が大勢いらっしゃることを実感して、とても頼もしく感じました。社員一人ひとりの行動のベースには、当社の挑戦のDNAがあると思います。優れた現場力とチャレンジ精神を持っているので、経営トップがその目線をさらに先へと向け、社員一人ひとりの自発的・自律的な動きを支援していくことで、当社のポテンシャルはさらに大きく広がっていくと思っています。
菅当社の人材のレベルの高さは日頃感じる所ですが、同時に定着率が高く保たれていることは好ましいですね。評価・待遇はもちろんですが、職場での一体感の醸成、居場所づくりなども含めて工夫されてきた成果であり、ぜひ今後も維持していってほしいと思います。
谷やはり名実ともに高機能材分野のトッププレイヤーとして成長してもらいたいと思います。また同時に素材産業の重要な担い手として存在感を発揮していくことを期待したいと思います。
従来、グローバル経済の中で資源や素材は自由に買えるもので、高い・安いはあっても調達の懸念はありませんでした。ところが最近では、地政学リスクの高まりにより資源ナショナリズムが強まり、各国の産業や経済を支える素材産業の重要性が改めて認識されています。投資家の皆さまには、トレンドであるAI・半導体ばかりに目を向けるのではなく、素材産業を育てるという目線で投資を考えていただきたいと思っています。また、当社としても、投資家との対話を通じて、そのようなメッセージを積極的に発信していくことが重要だと考えています。
豊田今回ご指摘いただいた内容が、まさに当社の強みであり、経営課題でもあると考えています。このような議論を取締役会の場でも行っていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。
ファシリテーター 取締役専務執行役員豊田 浩
独立社外取締役 谷 謙二
独立社外取締役 江藤 尚美
独立社外取締役 菅 泰三
独立社外取締役 小川 麻理子
ファシリテーター 取締役専務執行役員豊田 浩