

強靭でしなやかなレジリエント企業として
サステナブルな社会づくりに貢献し、
自らの持続的な成長を実現していきます。
外部環境の変化と、今後の事業を見据えて
ウクライナ情勢などの地政学的リスクをはじめ、資材価格やエネルギーコストの上昇、円安の進行、慢性的な人手不足など、さまざまな環境変化が当社事業のリスクとなります。変化に左右されにくい企業体質を目指すものの、特に中国経済の停滞、ステンレス鋼輸入材の国内市場への流入、脱炭素社会に向けた環境変化には留意しています。
中国経済の停滞については、輸出する高機能材の半分が中国向けである当社にとって影響は非常に大きいといえます。当面、中国経済は改善を見込めませんが、太陽光関連の需要継続や水素関連の拡大などのポテンシャルは失っておらず、悲観はしていません。ただし、リスク分散の観点から、中国市場への依存度は徐々に下げつつ、環境・エネルギー分野で成長が期待できるインド市場への本格的な進出が急務と考えています。現在、インド市場への営業活動はシンガポールの現地法人が担当していますが、拡販体制の強化に向け、2025年上期の現地拠点設立に向けて準備を進めています。海外事業では当然のことですが、商慣習や税制の違いなどに留意し、慎重に進めていきます。
次に、ステンレス鋼輸入材の国内市場への流入・定着については、今以上に悪化すれば死活問題にもなると危機感を強めています。健全・公平な貿易を維持するためには、輸出先の国内産業に過度な損害を与えない互恵関係を保つことが望ましいのは自明の理だと思います。
脱炭素社会を見据えた産業構造・規制の変化については、自動車のEV化による産業構造の変化が注目されていますが、当社のステンレス鋼は自動車向けの比率が高いとは言えず、影響は限定的です。その一方で、太陽光発電や地熱発電、水素関連の水電解設備においては当社の高機能材の採用が進んでおり、大きな事業機会が広がっています。新素材の開発や効率的な生産体制の構築とともに、インド市場での需要捕捉も目指します。また、CO2排出量を抑えたグリーン鋼材のニーズも世界的に高まっていることから、当社も参入および事業拡大の検討を進めています。
中期経営計画の主要施策を着実にカタチに
このような市場動向ではあったものの、昨年度は、「中期経営計画2023」で掲げた諸施策を着実に実行することができました。
中計の基本戦略①では、環境や脱炭素関連等の成長分野、中国やインド等のターゲット市場での高機能材拡販を掲げました。中国経済の低迷により、販売数量は前年度比で減少しましたが、一方、インド市場は伸長しています。なかでも排煙脱硫装置に使われる高耐食鋼・合金は火力発電向けの需要が旺盛で、年間を通して堅調に推移しています。
オイル・ガス関連分野では、2023年度下期にエネルギー需要増を受けた需要が活性化し、高耐食鋼・合金の販売数量は増加しました。水素関連分野では、国内の苛性ソーダ製造装置の交換需要を取り込み、純ニッケルの販売数量は堅調に推移しています。また、シーズヒーター材は、2022年度後半から続いた在庫調整が響き、販売数量は一時的に減少したものの、2023年度後半以降は米国需要が回復基調にあり、徐々に持ち直しています。
基本戦略②で掲げた、持続可能な調達力の向上およびコスト競争力の強化については、原料であるニッケル鉱石の調達リスク回避とともに、原料の多様化の一環として、いわゆる「都市鉱山」由来のリサイクル原料(廃電池・廃触媒)の使用比率を高めています。2023年度のリサイクル原料の使用率は58.7%にまで達しました。リサイクル原料に含まれるニッケル分は、ニッケル鉱石より含有率が高く、製錬時における燃料の原単位が改善されます。このことからエネルギーコストやCO2排出量の削減が可能になり、コスト競争力の強化にも寄与します。従来、廃棄物として処分されていたものが再生資源となって有効活用されるため、資源循環型社会への貢献にもつながります。
課題としては、リサイクル原料のアイテムは200種類以上もあり、そのままでは原料として使用できず、製造工程に投入する前に処理を施す必要があるなど、扱いが非常に難しいということです。この課題に対して、当社では受入から分析などのハンドリングの改善や最終製品の品位安定化に向けた配合調整、ニッケルを回収する技術などを磨きつつ、リサイクル原料の比率を上げるための実機試験を継続しています。
基本戦略③で掲げた、DXを通じた業務効率化と組織力向上への取り組みについては、現業部門におけるアナログデータのデジタル化から業務の効率化に着手しています。またグループを含めた基幹システムの再構築にも取り組んでおり、将来的にはグループの経営プラットフォームの共通化により管理機能の一元化を目指しています。今後は人員も増強し、DX化のスピードアップを図る計画であり、外部専門コンサルタントの現状評価や提言を受け、戦略立案やロードマップ策定を進めています。
なお、2023年度に当社の基幹システムがオープン基盤に完全移行しました。これにより、今後はAIなどの先端情報システムの活用も容易となり、基盤システムの保守運用に携わる技術者の確保、運用費用の大幅な低減なども見込んでいます。
人材育成の取り組みを推進
当社にとって、人的資本の増強は重要課題です。日本国内では少子化による労働人口の減少が深刻化しており、製造現場における人材不足は大きな問題となっています。また製品を造り込むような工程においては、技術を身につけるために長年にわたる修練を必要とします。そうしたオペレーターの育成・技能の伝承には、人的にも時間的にも的確な配分が求められます。そこで当社は、人員不足の解消をはじめ、作業効率の改善による時短化、長く働き続けられるための作業環境の改善等に取り組むと同時に、DXを活用した業務効率化や設備投資による省力化・作業効率化を積極的に推進しています。
女性活躍推進に関しては、管理職の登用などの点で、遅れていると言わざるを得ません。近年、ようやく女性の生産技術職の現場配置は増えてきましたが、今後も性別によらず個人の能力・適正に応じた多様な配置を進めるべきと考えています。また各職場の受け入れ態勢も改善していく必要を感じています。
人材力の強化のためには、仕事へのやりがいや自己成長を実感できる機会の提供が欠かせません。自己啓発の支援を含め、教育制度の整備や年功序列によらない適所適材の人員配置、公平で納得性のある評価に基づいた処遇の適用などにより、社員満足度や会社への貢献意欲の向上を図り、社員個人と会社組織がWin-Win関係を構築できるように努めていきます。
ステークホルダーの皆さまへのメッセージ
ステンレス業界は原料市況の影響を受けやすいため、業績の変動も大きく、当社も過去に幾度となく厳しい状況を経験してきました。事業を継続させるために今日に至るまでバトンを懸命につないでこられた諸先輩や、手を差し伸べてくださった多くの関係者の方々に深い敬意と感謝の念を禁じ得ません。
これからは過度に景気に左右されないよう、レジリエントでサステナブルな事業構造を構築することが大きな経営課題になってくると認識しています。その意味でも、2025年に迎える100周年はゴールではなく通過点に過ぎません。さらに、その先を見据え、次の100年、200年、成長していかねばならないと考えています。
久保田前社長の就任時にも、「次の世代にうまくバトンを渡したい」という抱負を述べておられましたが、私も想いは同じです。これからもお客さまや市場のニーズを捉えた製品づくりを行うとともに、従業員が誇りをもって働くことができる企業づくりに励んでまいります。ステークホルダーの皆さまには、引き続きご理解・ご支援を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。