トップメッセージ
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サステナブルな時代に求められる、
付加価値の高いステンレス鋼・高機能材を供給するために

社会に役立ち続ける「自信と誇り」

当社は2025年に創立100周年を迎えます。次世代の社会に役立つ素材、次世代が働きやすい会社を目指して、ここ数年でようやく本腰を入れて取り組めるようになったと感じています。2019年の社長就任以来、私が社員に言い続けてきたのは、我々が扱うステンレス鋼と高機能材という製品は、社会の役に立つ素材であるということです。また、そうした製品を扱うことに「自信と誇り」を持ってもらいたい。これからの時代、地道な取り組みだけでなく、そうした想いも、社内外にアピールしていかなければいけないと感じています。

事業環境の変化を機敏に捉えて

ステンレス業界は、国内においては業界再編によりメーカーが集約されてきました。一方、国内とは対照的に中国ではこの20年間、旺盛な能力増強が続きました。その結果、ステンレス鋼は特に東アジアにおいて慢性的な供給過剰構造に陥っています。

ただ幸いなことに、コロナ禍やウクライナ情勢などの影響については、わが国のステンレス業界は主原料のみならず、エネルギーコストや人件費、資材の高騰に対して適正な価格転嫁ができた業界の一つだと思います。その結果、2022年度は当社も好決算で終わることができました。しかし、いわゆる在庫評価益の影響もあり、手放しでは喜べないとも感じています。

高機能材については、アメリカの住宅着工件数の減少などから家電製品向けシーズヒーターやバイメタルなどの耐久消費財分野は調整局面が継続する一方、中国での太陽光発電向けなど再生可能エネルギー分野は堅調に推移しました。

ただ、今後の見通しについては、世界的なサプライチェーン分断によるさまざまな影響を懸念しており、課題を内包した状況と考えています。

代表取締役社長 久保田尚志

100周年のその先へ、成長ビジョンを描く

こうした先行き不透明な状況のなか、当社の100周年である2025年とカーボンニュートラルの一つの節目である2030年を目指して、自分たちの成長とは何か? 財務的にはどうあるべきか? 製品構成や海外拠点はどうあるべきか?といったことを社員みんなで考えようということで、「2030年のありたい姿」とそのアクションプランとなる中期経営計画の検討を進めました。

「2030年のありたい姿」では、多様性を持つことの重要性を踏まえた「レジリエンス」と持続可能な事業運営を見据えた「サステナブル」という考えを織り込みました。ステンレス鋼は、サステナビリティやSDGsの時代に応える素材として再び大きな期待が寄せられるとともに、大江山製造所で取り組んでいるカーボンレス・ニッケル製錬も、その流れのなかで新たな脚光を浴びつつあり、ステンレス鋼や高機能材を必要とする産業が大いに増えてきていることを実感しています。そして「中期経営計画2023」では、こういったニーズに応えるために製品や人材、働き方の「質」を高める取り組みに注力していきたいと考えています。その想いを込めて、「未来につなぐ、100年目のメッセージ」という副題を付けました。

特にカーボンニュートラルの実現と高機能材の増産・拡販は、当社が全力で取り組むべき喫緊の課題と考えており、これらに関連した戦略投資は、今回の中期経営計画の柱になっています。

さらに、製品ポートフォリオの組み替えによる多様性の確保も重要な観点です。過去においても、ステンレス鋼の供給過剰を見据え、川崎製造所の設備特性や技術を活かしていち早く高機能材の製造に舵を切ったことで、新しい市場ニーズに対応した成長を実現することができました。今回の「ありたい姿」を目指していくプロセス、特に「中期経営計画2023」においても、市場ニーズを敏感に察知するアンテナは持ち続けていきたいと思います。

これらに加えて2030年に向けて、従業員の質的成長と、一人一人の豊かな生活の実現を目指していきます。「中期経営計画2023」は、その足掛かりの3か年にしたいと考えています。

国内外のニーズにフレキシブルな体制で対応

「中期経営計画2023」では3つの基本戦略を掲げています。
 まず、基本戦略1「高度化する市場ニーズを追求し新たな価値を生み出す産業素材の開発・提供」では成長ターゲット市場として水電解分野(水素エネルギー)を掲げました。水素分野については、さまざまな水素環境下での物性値を求められます。現在その計測は外部に委託していますが、今後は自社でも対応できるように、川崎製造所に水素環境での材料評価試験場の新設を準備しています。その他のターゲットとしては原子力関連への材料供給も検討しています。

成長ターゲットエリアとしては、インド市場を第一に考えています。中国で起こったような環境関連の投資などはインドでも間違いなく始まるだろうし、現に明らかな兆しがあります。ただ、既に輸出実績はあるものの、中国のような広がりや高まりを獲得できるかというと、まだ明確なイメージはできていません。

そして、基本戦略2「技術の優位性を高め市場環境の変化に対応する効率的な生産体制の構築」では、自社の適正な生産能力を有しつつ販売機会を逃さないよう準備することが最重要と考えており、必要に応じて増産できる体制を整えていきます。

特に、高機能材については、中国のキャッチアップが相当なスピードで進んでいます。我々はハイスペック、かつ作りにくい製品に注力せざるを得ない状況ですが、その際、製造工程にボトルネックが生じます。以前も、売れないのではなく、つくり切れないことがありました。このボトルネックを解消して難製造材の製造キャパシティを増やしつつ、販売と製造がバランスするようなフレキシブルな体制を構築する必要があります。

需要があるのにつくり切れないという課題は、サイズにもあります。ここには対策を打っており、我々のミルではつくり切れない高耐食・耐熱ニッケル合金の超広幅プレートを中国合弁会社のパートナーである南京鋼鉄股份有限公司の設備を活用して商品化しています。これは太陽光発電関連の需要を捕捉するのに大きなアドバンテージになったと感じています。

カーボンニュートラルへの対応については、特に大江山製造所のフェロニッケルの製造対応と、川崎製造所の燃料転換の2つが、この中期経営計画期間での大きな戦略投資になると思います。

ステンレス鋼については、当社の供給責任が非常に重くなっています。国内の流通や需要家の皆さんのご期待にきちんと応えていくためにも、ステンレス鋼の安定供給は我々の基本であると考えています。

原料の多様化を進め、循環型社会のループを広げる

基本戦略2では、原料の多様化、持続可能な調達力の強化にも取り組んでいきます。かつて大江山製造所では、ニューカレドニアやインドネシアからニッケル鉱石を大量に輸入し、石炭で還元してフェロニッケルを生産していました。鉱石が安価で買えたこともあり競争力がありましたが、資源ナショナリズムの流れでニッケル鉱石の輸入先が限られ、かつコストが上昇し、持続可能性の観点からも原料調達の見直しが必要となりました。また近年では大江山製造所が石炭を使用していることから、カーボンニュートラルへの対応も急務となっています。

こうした観点から、現在、当社は原料の鉱石をリサイクル原料(都市鉱山)に置き換えつつあり、大江山製造所では200種類に及ぶリサイクル原料の管理や成分分析の自動化などに取り組んでいます。基本的に、リサイクル原料にはニッケル鉱石よりも多くのニッケル分が含まれているため、ニッケル鉱石よりも少ない量でフェロニッケルを生産できます。そのため、リサイクル原料の活用はCO2排出量の削減に繋がっています。また、エネルギー源は石炭からLNG、再生燃料に、ニッケル鉱石の還元材についても石炭から廃プラスチック等に転換するなど、CO2排出量の少ないフェロニッケルの生産を進めています。

今後、世界的に資源の奪い合いになるかもしれないことを踏まえると、資材調達や環境対応に地道に取り組み続けることは、私たちの競争優位性になると感じています。世界中からスクラップを探して来ることはもちろん、工場内で発生する加工屑など、徹底した再利用を図っていきます。当社は、ステンレス鋼と高機能材のメーカーですが、ニッケルを中心としたリサイクルの側面から見れば都市鉱山などの活用会社でもあります。そういう位置づけは非常に面白いのではないかと思います。

製品で言えば、日本冶金に行けば「欲しいものがきっとある!」。リサイクル原料で言えば、日本冶金なら「使ってもらえる!」、あるいは「地球に優しくリサイクルしてくれる!」。そんな喜びの声が聞こえてくるような会社となって、循環型社会の大きなループを広げていきたいと思います。

戦略的な人的資本投資で、経営基盤を拡充

そして、基本戦略3「環境変化にも揺らぐことのない持続可能な経営基盤の確立」では、戦略的な人的資本投資を掲げています。そもそもステンレス業界は、戦後、海外の新しい技術を取り入れるとともに、人を育てて、その技術力で成長してきた業界です。当社でも世の中の流れを受け、賃金水準等の見直しに着手するとともに、福利厚生の充実やリスキリングに向けた取り組みも進めています。

一方、製造所における女性活躍については、例えば検査業務や設備のメンテナンスといった職務では進んできていますが、特に製造現場である技能職では高いハードルがあります。現状では、女性用の洗面所やパウダールームを増設するなどハード面での対応を進めているところです。深夜勤務については、自動化システムの導入などで男女問わず負担を軽減していく方向で働き方改革を進めていきたいと考えています。

働き方改革と併せて、デジタル技術の活用も、当社が今後取り組むべき大きな課題です。AIを使った操業技術の分析などはすでに始まっていますが、真の意味でのDX(デジタル・トランスフォーメーション)を実現していかなければ持続的な成長は望めません。ハードルは高いと思いますが、トライしていかなければならないと考えています。

もう一つの人的課題は、自己成長機会の提供とモチベーションの維持・向上です。この観点では、まずは若い方たちに機会を与えることが大切であると考えています。そもそも会社が苦しいと人材を採用できなくなり、職場が固定されて効果的な異動ができなくなってしまいます。やはり、会社を元気にして若い人に集まっていただき、どんどん色々な職務経験を積める機会を与えることが大事なのだろうと思います。

ちなみに私は人事での経歴が長かったのですが、入社後すぐに配属されたのが製造所の原価計算を担う部署でした。それを1年半経験した後、大阪支店の営業や川崎製造所の生産管理の仕事を経験し、そこから役職がつくまで人事部で働きました。いま振り返ってみると、その最初の、わずかな期間ではありましたが、さまざまな部署を経験できたことが、今の自分の身になっていると実感しています。

スピード感を持ってサステナビリティ課題に取り組む

当社では、全社横断の議論を通じて、2021年にサステナビリティに関する課題を6つに集約し、重要課題として公表しました。この6つの課題はそれぞれ経営理念に直結しています。

今回「2030年のありたい姿」と中期経営計画を策定するにあたり、この6つの課題をそれぞれ具体的な施策に落とし込み、各部署・製造所がそれに基づいて実行していくための計画書を策定しました。各部署・製造所単位でKPIを定め、進捗をチェックできるようにしています。

課題の解決に向けて大事なのは、判断のスピードと責任の所在の明確化です。部門のトップとなる人が、責任を持って発言できる場を持つべきだろうと考え、私を議長とした「サステナビリティ推進会議」を設置しました。この会議体で議論して決めたことは即決定事項として、スピード重視で具体化を進めていく所存です。

持続可能な事業があって、従業員の幸せがある

私の信念として、持続可能な事業のためには、お客さまの信頼を得ることが第一に重要であると考えています。そして、お客さまへの価値提供を通じて、持続可能な事業を構築した上に従業員の幸せがあり、社会や経済が回っていくのだと思います。

当社が扱っている製品は、人々の生活に密着した、生活を支える素材であり、これからのカーボンレス社会にも大きく貢献する可能性を持つ素材です。お客さまには、その価値を正しく認知していただき、そして従業員には、そうした事業に携わっていることに対する「自信と誇り」を持ってもらい、その上で株主の皆さんにもきちんと報いていきたいと考えています。それこそ、私が最も大事にしていることです。

その背景には、過去に苦しんできた当社の歩みがあります。当初はステンレス鋼しか扱わず、原料調達にも選択肢が限られていたことから、お客さまの要望に対して十分に応えられない時期がありました。そこから一歩一歩、粘り強く改善を重ね、顧客視点の多様性を身につけたことが生き残りに繋がりました。

今後は、多様な原料から製品をつくり、それを多様な人材で考えて売っていくことがますます重要になると確信しています。そのためにはジェンダー平等を含めた多様性や柔軟性についてもより強化していかなければならないと考えています。

100周年はゴールではありません。次の100年に向けた新たなスタートとして、独自の技術を磨き、ステークホルダーの皆さまに新たな価値を送り出していきたいと思います。